「なんでその訳語にしたの?」という疑問に答えます.
本書では,speech act の訳語に「言語行為」を選んでいます.この訳語は,サールの古典的な『言語行為』(勁草書房,1986年)その他で広く採用されているものです.
他方で,同じ speech act を「発話行為」と訳す著作も多数あります.代表的な著作を挙げると,たとえば山梨正明『発話行為』(大修館書店,1987年)がそうです.
さて,本書でなぜ「言語行為」の方を採用しているかと言えば,理由は単純で,これの他に "utterance act" という用語があるからです."utterance" は「発話」の訳が定着していてほぼ統一がとれていますから,これは「発話行為」と訳すのがいちばんいいでしょう.すると,speech act まで「発話行為」と訳せば,用語がかぶって,紛らわしくなってしまいます.そのため,同じ程度に標準的な訳語でも「言語行為」を採用した方が読者に「さて,どっちの用語のことだろう?」と余計な負担をさせずにすみます.
「speech act = 発話行為」という訳語が間違っているとは思いません.ただ,混乱が少ない方がいいだろうとは思っています.
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